健康診断だけでは、これからの健康管理は足りない――高齢化社会で企業に求められる健康管理
これからの企業の健康管理を考えるとき、「健康診断をきちんと実施する」というだけでは十分ではなくなっていくでしょう。日本では高齢化が進み、働く人の年齢も上がっています。
年齢を重ねれば、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病だけではなく、筋肉量・筋力の低下、いわゆるサルコペニア、認知機能の低下、視力や聴力の低下など、働き方に影響するさまざまな変化が起こりやすくなります。
もちろん、年齢を重ねたからといって仕事ができなくなるわけではありません。
むしろ重要なのは、
「病気があるか」ではなく、「その人がどのような状態で、どのような仕事を続けられるのか」という視点です。
これからの産業保健では、この視点がますます重要になると考えられます。
<健康意識が高い人だけを対象にしてはいけない>
健康意識は以前より高まっています。運動をする人、食生活に気をつける人、定期的に医療機関を受診する人も増えています。
しかし、企業の健康管理で難しいのは、むしろその反対側にいる人たちです。
・健康診断を受けても結果を確認しない。
・結果が悪くても医療機関を受診しない。
・受診していても生活習慣は変わらない。
・運動習慣がなく、体重や血圧、血糖などが徐々に悪化している。
このような人たちを、本人の「健康意識」に任せてしまうだけでは、企業として十分な健康管理とはいえません。健康管理の対象は、健康意識の高い人だけではありません。むしろ、健康上のリスクが高いにもかかわらず、自分からは行動を起こしにくい人に、どのように働きかけるかが重要になります。
<健康診断は「受けて終わり」ではない>
労働安全衛生法では、健康診断の結果に異常所見がある労働者について、事業者は医師等から意見を聴取し、その意見を踏まえて必要な就業上の措置を講じる仕組みになっています。(厚生労働省)
つまり、健康診断は「実施すること」が目的ではありません。
その結果を、記録する → 評価する → 必要な対応をする → その後の変化を確認するというところまでつなげることが重要です。さらに、健康診断で異常が見つかった人に対しては、単に「病院を受診してください」と伝えるだけではなく、その人の健康状態に合わせた健康教育を行うことも重要です。
例えば、
- 血圧が高い人
- 血糖値が高い人
- 肥満がある人
- 肝機能異常がある人
- 喫煙習慣がある人
- 運動不足がある人
- 筋力・体力の低下が疑われる人
では、必要な情報は同じではありません。全員に同じ資料を配布するだけではなく、個人のリスクに合わせて教育内容を変えることが、これからの健康管理には必要になります。
<健診機関によって「判定」が違う問題>
企業の健康管理では、もう一つ見逃せない問題があります。それは、健康診断を受ける医療機関によって、同じような検査結果でも判定やコメントが異なることです。企業として本当に知りたいのは、「今年は要観察だった」という一回限りの判定だけではありません。
むしろ、「この人は3年前と比べてどう変化しているのか」という情報です。そのためには、可能な範囲で判定基準やデータの扱いを標準化し、経年的な推移を追える仕組みが重要になります。「今年の結果」だけを見る健康管理から、「その人の5年、10年の変化を見る健康管理」へ移行することが必要です。
<「通院しているから大丈夫」という考え方も危険>
健康管理でよくある誤解の一つが、「この人は病院に通っているから大丈夫」という考え方です。
しかし、通院していることと、健康状態が良好であることは同じではありません。医療機関に通院していても、血圧や血糖などが十分にコントロールされていないことはあります。また、治療を受けていても、運動不足や体力低下、肥満、喫煙などの問題が残っていることもあります。
したがって企業の健康管理では、通院しているかどうかではなく、現在の健康状態とリスクを評価することが重要です。
もちろん、企業が治療内容に介入するという意味ではありません。企業は医療機関で行われる診療とは別に、「働く人の健康状態を把握し、必要な健康行動につなげる」という役割を持っています。
<これからは健康診断以外の評価も重要になる>
健康診断の法定項目では最低限の生活習慣病のリスク管理しか出来ません。高齢化が進む社会では、従来の健康診断だけでは把握しにくい病気にも目を向ける必要があります。
例えば、
- がん検診
- 体力測定
- 筋力・身体機能の評価
- 運動習慣の確認
- 認知機能に関する評価
などです。もちろん、すべてを全社員に一律に実施すればよいという話ではありません。年齢、職種、業務負荷、健康リスクなどを踏まえ、「この会社では、どのような健康問題が仕事に影響しやすいのか」を考えて必要な評価を組み合わせていくことが重要です。職種によっても評価は変わるので、産業医により個別の評価も大事になっていきます。
<「運動しましょう」から「運動できる仕組み」へ>
運動についても同じことがいえます。「運動してください」と伝えるだけでは、なかなか習慣化しません。
重要なのは、運動をするきっかけをつくること、そして、実際に身体機能がどう変化したのかを確認する機会をつくることです。
例えば、体力測定会などを実施し、1年前と比較して筋力や身体機能がどう変化したのかを本人にフィードバックする。最近ではInbodyを導入する企業も増えています。そうすると、健康教育が単なる知識の提供ではなく、行動変容につながる可能性があります。これからの健康管理は「病気を見つける」だけではありません。その先にある、「その人が長く働くためには何が必要なのか」を考えることです。
生活習慣病を予防する。筋力低下を防ぐ。体力を維持する。認知機能に関する変化に早く気づく。そして、健康状態が変化したとしても、その人ができる仕事をできるだけ長く続けられるようにする。高齢化と人口減少が進む社会では、このような健康管理への転換が、企業にとって重要な経営課題になっていくでしょう。
